業界によって離職率に差がある理由
業界別の離職率
就活の際にその会社の「離職率」には当然拘りますよね。もちろん離職率が低いに越したことはありませんが、なぜ会社や業界によって離職率に差があるのでしょうか。人によって向き不向きがあると言えばそれまでですが、今回は「業界別の離職率」からその理由を分析してみたいと思います。
こちらは2017年の業界別の離職率ですが、実はこの順位はここ10年以上殆ど変わっていません。こちらを見ると、全産業の離職率の平均が9.2%に対し、サービス・流通小売業の離職率は23%と圧倒的に高いのが分かります。サービス業の離職率の高さは、なんとなく情報として浸透していますが、ではなぜサービス業は離職率が高いのでしょうか?
これを学生に聞くと下記のような回答が殆どです。↓↓
・サービス業は仕事がキツイから
・土日も仕事だし休みがないから
・給料が安いから
・残業が多いから
確かに間違ってはいません。それも勿論あります。ただそれはあくまでサービス業の特徴です。
では他の業種と比べてみましょう。逆に商社や資源・エネルギー業界はなぜ離職率が低いのでしょうか?離職率が低い業界はサービス業の全ての特徴を克服しているのでしょうか。
リクルーターの私から言わせると、他の業種と違って接客やサービス業というのはアルバイトだけで殆ど仕事が回ってしまうのです。よく見ると、他の業種は殆どアルバイトを雇っていませんよね。金融のアルバイト、エネルギー関連のアルバイトなんて聞いたことがありません。
アルバイトで事足りるという事は、研修期間はほんの数時間程度で現場に立たされてしまうのです。サービス業や接客業の正社員は、アルバイトや店の管理をしながら効率よく現場を回さなければなりません。しかし、実際に行っている仕事自体はアルバイトと殆ど変わらないのです。結局は仕事量が多いか少ないかの違いです。
伝統的な職人気質なお店であれば、アルバイトには到底マネ出来ない技術があるかもしれませんが、完全にフランチャイズ化された店舗というのは、接客・調理・オペレーション等、何から何までマニュアル化されています。要は「誰にでもすぐに実践出来る仕組み」になっているのです。
「この仕事って正直誰でもいいんじゃないか」「アルバイトと何が違うんだろう」と感じてしまうと、途端にやる気がなくなってしまうのです。もはやそこにやりがいを感じられないからです。
人材としての市場価値
例えばエンジニアという職種は、まずビジネスマナーから始まり、ITの知識や基礎的な技術を何か月もかけて習得した上で、ようやく少しずつ業務に触れながら慣れていくので、独り立ちするまでに少なくとも2、3年はかかるのです。
数時間で学べる仕事と数年かけて学ぶ仕事では、人材としての市場価値に大きな差が出てしまうのです。それがこの業界別の離職率の差なのです。市場価値が高ければ、転職なんてあっという間に良い条件で決まってしまいます。だからその人が転職しないよう待遇を高く設定する必要があるのです。私は以前、自分の持っている資格やスキルを転職サイトで検索したら、選べる会社がこんなにあるのかと驚いた事があります。
だから「最初から誰にでもある程度出来てしまう仕事」というのは待遇面も良くないし離職率も高いのです。誰でも出来てしまう仕事ほど怖いものはないのです。
サービス業や接客の仕事は立派な仕事だと思いますが、業務を行う上で必要な接客スキルやコミュニケーション力というのは、その人に元から備わっている部分が多く、実際に学べる事や身に付くスキルが少ないのです。サービス業に向いている人というのは、人の管理が出来て判断力に優れた人材の事なのです。
生産力の高い人材とは
しかしサービス・接客業の中でも、シェフや美容師は覚える事が多いし、実際に一人前になるのは大変じゃないか?確かにそう思います。ただサービス業や接客業というのは、殆どの作業を人力で行うため、生産力にレバレッジが効かないのです。
例えばミュージシャンがヒット曲を作れば、後は何もしなくても印税が入りますが、その生産力は「働いた時間」には比例しないのです。携帯アプリやホームページなどは、一度システムを作れば後は24時間365日自動で作動するため、生産力にレバレッジが効くのです。逆に人力の場合、働いた時間と生産力が比例しており、「生産力=忙しさ」になってしまうのです。だから生産力にも限界があるのです。
よくアナウンサーがフリーになったというニュースを聞きます。技術や人気がある人はフリーで活躍する事が出来ますが、それだけで起業する事は出来ません。起業家や世の中に多くの影響を与える人というのは、システムや仕組み作りに長けている人なのです。だからシステムや仕組み作りを学べる環境というのは最大のメリットでもあるのです。
私はサービス業を否定している訳ではありません。ただ方向性を決める前に、業界の動向やある程度の情報を知っておけば「納得感のある就職」をする事が出来るからです。何も知らずにただ闇雲に就職してうまくいく人はよほど運がいい人です。
離職率には注意が必要
ちなみにこの「離職率」という数値を鵜呑みにすると、大きな誤解を生む可能性があります。実は離職率の計算方法に明確な定義はありません。
一応、厚生労働省の雇用動向調査の概況では、「年初の常用労働者に対する離職者数の割合」となっています。しかし、場合によっては「新卒で入社した人が3年以内に離職する割合」、「中途入社の人が1年以内に辞める割合」といった場合にも使われます。要は使用目的によって数字の「分母」と「分子」を入れ変えている訳です。しかも年初と言っても企業によって決算時期が違うので、4月でも1月でもいいのです。
という事は、単純にA社とB社の離職率を比べる事はナンセンスだという事です。どの離職率の定義を用いるかは企業の自由ですので、企業にとって都合のいい数値だけを伝えても何の問題もないからです。
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